「間質性膀胱炎(IC/BPS)を徹底解説:頻尿・膀胱痛の原因・診断・治療・生活の工夫」

:膀胱を原因とする慢性の膀胱/骨盤痛でお困りの方へ


はじめに

膀胱の痛み・頻尿・尿意切迫感など、原因がはっきりせず「繰り返す膀胱炎」と言われてきた症状が、実は 間質性膀胱炎(Interstitial Cystitis/Bladder Pain Syndrome:IC/BPS)である可能性があります。
本稿では、最新の国内外ガイドラインに沿って、IC/BPSの定義・原因・症状・診断・治療・生活上の注意点を整理します。医療者側だけでなく、症状を抱えるご本人・ご家族にも理解しやすいようにまとめました。


1. 定義・疫学・背景

1-1 定義

国際的なガイドラインでは、IC/BPS は一般に以下のように定義されています:

「尿意亢進・頻尿・膀胱または骨盤部の疼痛・圧迫感・不快感が、少なくとも6 週間以上続き、明確な原因(例えば膀胱感染症・腫瘍・結石等)がないもの」
国内の難病情報でも、
「膀胱に関連する慢性の骨盤部疼痛、圧迫感または不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い、他に混同しうる疾患がない状態」 とされています。(難病情報センター)
 また、症例の中で、内視鏡的に特徴的な病変(いわゆる“ハンナ病変”)を有するものを「ハンナ型間質性膀胱炎」、それ以外を「膀胱痛症候群」と分ける流れもあります。

1-2 疫学・発症背景

  • 中高齢の女性に比較的多く認められますが、男性・小児にも発症します。 (難病情報センター)
  • 発症機序は明確には解明されておらず、典型的な細菌感染とは異なり、膀胱粘膜の機能障害・免疫反応の異常・神経過敏化・尿中刺激物質の関与など、複数の要因が関与すると考えられています。 (難病情報センター)
  • 症状は再燃・寛解を繰り返すことが多く、生活の質(QOL:Quality of Life)に大きく影響します。

1-3 なぜ「見過ごされる」ことがあるか

  • 尿培養で菌が出ない(通常の膀胱炎とは異なる)ことが多い。
  • 症状が頻尿・尿意切迫・痛みといった一般的なもののため、他の疾患(過活動膀胱・慢性骨盤痛・婦人科疾患など)と混同されやすい。
  • 特効薬・根治療法が確立しておらず、「原因不明」「ストレスのせい」にされることもあります。

2. 症状・特徴

IC/BPS の典型的な症状と、「この症状が出たら疑ってみるポイント」を整理します。

主な症状

  • 膀胱または下腹部、骨盤底部に「痛み」「圧迫感」「不快感」を感じる(排尿により軽減することもあります)
  • 昼・夜を問わず頻尿(例えば1時間に1回以上、夜間トイレに何度も起きる)
  • 尿意切迫感(我慢できないような尿意)/すぐまた尿意が戻る感じ
  • 尿検査では明らかな菌陽性を伴わない(典型的な膀胱炎とは異なる)
  • 性交痛・座位での不快感・ストレス・食事内容で悪化することもあります。

疾患の特徴・注意点

  • 症状の変動が大きく、「今日は調子いい」「また悪くなった」と波があることが多い。
  • 「ハンナ病変あり」型(ハンナ型IC)は、内視鏡所見・組織所見ともに特徴的で、症状もやや重めです。
  • 頻尿や痛みがあるため、睡眠不足・ストレス増大・心理的な影響を伴いやすく、QOL低下が懸念されます。

3. 診断の流れ・注意点

ガイドラインに沿った診断の考え方を整理します。

3-1 初期評価・除外診断

  • 症状聴取:頻尿/夜間頻尿/尿意切迫/膀胱・骨盤の痛み・不快感の有無。
  • 尿検査(尿沈渣/培養)で明らかな細菌性膀胱炎・尿路感染症を除外。
  • 超音波検査・膀胱鏡検査などで、尿路結石・腫瘍・前立腺肥大・婦人科疾患など他の疾患の可能性をチェック。 (日本泌尿器科学会)
  • 症状が少なくとも6週間以上続いているか(国際定義)を確認。

3-2 内視鏡・分類のポイント

  • 膀胱鏡で「ハンナ病変」=膀胱粘膜に典型的なびらん/出血点(Hunner lesion)が検出される場合、「ハンナ型IC」と分類されます。
  • ハンナ病変がない場合でも、症状・所見から「膀胱痛症候群(BPS)」として扱われることがあります。 (日本泌尿器科学会)
  • 国内ガイドラインでは、ハンナ型・非ハンナ型で病態・治療反応が異なる可能性に言及されています。
  • 近年、「筋筋膜性骨盤疼痛症候群」と言う概念が提唱され、BPSと扱われている場合もある。

3-3 国内の診断基準・重症度分類

  • 国内の難病情報には「重症度基準」も記載されています:
    • 軽症:膀胱痛0〜3点、最大一回排尿量200 mL以上
    • 重症:膀胱痛7〜10点、最大一回排尿量100 mL以下 など。
  • 診断基準では「症状+検査所見(ハンナ病変)+他疾患除外」が重視されています。

ポイント整理

  • 「菌が出ないのに頻尿・尿意切迫・膀胱痛がある」場合、IC/BPSを念頭に置く。
  • 膀胱鏡やその他検査で他の疾患を除外することが診断上非常に重要。
  • 診断確定・分類(ハンナ型 vs 非ハンナ型)により、治療方針が異なる可能性がある。
  • 筋膜性骨盤疼痛症候群(MPPS)の可能性もある。

4. 治療の考え方

国内外のガイドラインを参考に、段階的・多面的アプローチを示します。完治を目指すというよりは「症状コントロールとQOL改善」が主目的です。

4-1 治療の大原則

  • 患者教育・生活習慣改善・トリガーの回避(保存的治療)をまず行う。
  • 薬物療法・膀胱内療法・理学療法などを段階的に併用。
  • それぞれの症状・重症度・反応を見ながらカスタマイズする。
  • 保険適用・施設症例・エビデンスレベルに差があり、専門医との相談が重要。

4-2 保存的治療・セルフケア

  • 食事・飲料の見直し(刺激物・酸性/辛味・アルコール・カフェインなど)
  • 排尿習慣の調整・膀胱訓練・骨盤底筋リラクゼーション
  • ストレス管理・良好な睡眠・適度な運動
  • 尿意切迫や頻尿への「まず観察・記録・トリガー把握」など。
    これらは、ガイドラインでも第一段階として強く推奨されています。

4-3 薬物療法

  • 抗うつ薬(例:アミトリプチリン)・抗ヒスタミン薬・鎮痛薬などが用いられる場合があります。
  • 尿意切迫/頻尿が主体の方には抗コリン薬・β3刺激薬が併用されることもあります。
  • 内服療法だけで十分反応しない場合は、さらなるステップへ移行します。

4-4 膀胱内注入療法・内視鏡・手術的治療

  • 膀胱内注入:例えば ジメチルスルホキシド(DMSO)注入療法など。国内ガイドラインでは、保険収載治療として「膀胱水圧拡張術」と同様に「DMSO膀胱内注入」が明記されています。 (日本泌尿器科学会)
  • 内視鏡下治療:ハンナ病変がある場合、レーザー焼灼(TULA)・電気焼灼などが施行されます。
  • 外科的治療(膀胱全摘など)は、非常に限定的な重症例での選択肢です。

4-5 専門的治療/リハビリテーション

  • 筋膜性骨盤疼痛症候群との合併:骨盤底筋理学療法(過緊張筋のリリース・トリガーポイントケア)なども有効性が認められています。
  • ボツリヌストキシン膀胱内注入・神経モジュレーション(仙骨/陰部神経刺激)など、エビデンスレベルは限定的ですが選択肢として挙がっています。

5. 国内保険適用上のポイント

日本国内のガイドラインでは、以下の点が明記されています:

  • 本邦で「間質性膀胱炎(ハンナ型)」で保険収載されている治療は、膀胱水圧拡張術 と DMSO 膀胱内注入療法のみ。 (日本泌尿器科学会)
  • それ以外の治療(薬物:内服、膀胱内注入・食事・理学療法など)は、医学的根拠に基づくものである。
  • そのため、症状・治療方針の説明時には「保険適用/自費適用」の可能性について、患者さんとの十分な共有が重要です。
間質性膀胱炎の治療法を示すインフォグラフィック。
間質性膀胱炎と膀胱痛症候群の内視鏡治療に関する情報を示すスライド。膀胱水圧拡張術推奨グレードBと経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術推奨グレードBが記載されている。
間質性膀胱炎の内服治療のリストが含まれたスライド。各治療法の名称と推奨グレードが示されている。
間質性膀胱炎の内服治療に関する表で、免疫抑制剤、NSAIDs、ステロイド、Pentosan polysulfate sodium、クエン酸、漢方の推奨グレードが示されています。
間質性膀胱炎と膀胱痛症候群のための保存的治療法を示した図。各治療法は推奨グレードと共に記載されている。
膀胱内注入療法の治療選択肢を示すインフォグラフィック。DMSO、ヘパリン、高分子ヒアルロン酸、リドカイン、ステロイド、ボツリヌス毒素などの医薬品とそれぞれの推奨グレード(BまたはC1、C)が記載されている。
間質性膀胱炎および膀胱痛症候群の膀胱内注入療法に関する情報を示した表。推奨薬剤とそのグレードが記載されている。

6. 実際の臨床・生活での工夫

6-1 ご自身ができること

  • 排尿日誌をつけて「いつ・どれくらい・どのような状況で症状が出るか」を記録。トリガー(飲料・食事・座位時間・ストレスなど)を把握する。
  • 尿が溜まる前にトイレに行かず、「膀胱にある程度尿をためる」訓練を段階的に行う(理学療法や指導を受けながら)。
  • 食事・飲料の見直し:酸味・辛味・カフェイン・アルコール・炭酸・人工甘味料などが刺激になる場合があります。
  • ストレス・睡眠・座位時間の工夫:骨盤底筋の過緊張を防ぐためには、定期的なリラックス・体操・適度な運動が有効です。

6-2 医療面でのポイント

  • 医師・泌尿器科専門医・骨盤底理学療法・婦人科などとも連携が有効です。症状が多岐にわたるため、合併症・併存症(例えば過活動膀胱・骨盤底筋過緊張・腸疾患など)を見逃さないことが重要。
  • 治療反応が見られない場合でも、「すぐ治らない/再燃がある」ことをあらかじめ説明し、継続的なフォロー・セルフケアの重要性を共有しましょう。
  • ハンナ型か否かで治療戦略が異なる可能性があるため、内視鏡評価の検討が推奨されます。

7. Q&A/よくある疑問

Q1. 「膀胱炎」と言われたことが何度もありますが、菌が出ない時はIC/BPSでしょうか?
→ はい、菌が出ない頻尿・痛み・切迫感の症状がある場合には、IC/BPSの可能性があります。ただし、他の疾患を完全に除外する必要があるため、専門医(泌尿器科)での評価が重要です。

Q2. 完治できますか?
→ 現時点では「原因を根本から治す」治療は確立されていません。ガイドラインでも、「症状コントロール・QOL改善」が治療の目標とされています。

Q3. 食事でどこまで改善できますか?
→ 個人差が大きいため、「この食べ物を絶対×」というよりは、症状が増悪した際の食事・飲料を記録・傾向を把握し、可能なトリガーを避けるというアプローチが推奨されます。

Q4. なぜ「水圧拡張術」や「DMSO注入」が保険適用なのですか?
→ 国内ガイドラインにおいて、これらが保険収載治療(膀胱水圧拡張術+DMSO膀胱内注入)として明記されております。

 


8. まとめ

  • 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/BPS)は「原因不明の膀胱関連痛+頻尿/尿意切迫」を特徴とする慢性疾患。
  • 診断には「他疾患の除外」「症状・検査(膀胱鏡など)」「分類(ハンナ型 vs 非ハンナ型)」が重要。
  • 治療は「保存的治療 → 薬物/理学療法 → 膀胱内注入・内視鏡治療」という段階的アプローチが基本。
  • 国内では「膀胱水圧拡張術+DMSO膀胱内注入」が保険適用となっており、その他治療は保険上の推奨度に注意が必要。
  • 患者さん自身の日常セルフケア(排尿習慣・食事・ストレス対策)・医療機関との連携が非常に重要です。

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