30代の女性。
出産後に骨盤臓器脱を指摘され、ペッサリーを挿入されていました。
しかし、しばらくすると腟壁にびらん、いわゆる「腟壁の床ずれ」ができてしまい、ペッサリーを外して経過観察となりました。
その後、再び骨盤臓器脱(膀胱瘤)が悪化し、当院を受診されました。
診察すると、
・骨盤臓器脱 Grade 3
・骨盤底筋力 Oxford scale 1
Oxford scale 1というのは、「わずかに筋肉が収縮する程度」です。
さて、皆さんならどのような治療方針を立てるでしょうか?
「もう一度ペッサリー」か「手術」か?
一般的には、
「ペッサリーをもう一度入れてみましょう」
あるいは、
「ペッサリーが難しいなら手術を考えましょう」
という提案になるかもしれません。
もちろん、どちらも間違った治療ではありません。
ただ、私はもう一つ考えたいことがあります。
前回の「ペッサリー → 腟壁びらん」のどこに問題があったのか?
ということです。
ペッサリーそのものが悪かったのでしょうか?
それとも、サイズや種類、管理方法に改善できるところがあったのでしょうか?
ペッサリーは「入れっぱなし」にするしかないのか?
体の中に装着するものを考えてみてください。
入れ歯やコンタクトレンズは、自分で着けたり外したりして管理するのが基本です。
ペッサリーも同じように、患者さん自身が着脱できるようになれば、必要な時に使用し、自分で外して腟を休ませるという選択肢が生まれます。
もちろん、すべての方が自己着脱できるわけではありません。
だからこそ、
その方に合ったペッサリーの種類・サイズを選ぶこと。
そして、自己着脱の方法をきちんと指導すること。
ここまで含めて「ペッサリー治療」だと考えています。
そして、もう一つ大切なのが「骨盤底筋」
この方のOxford scaleは1
つまり、骨盤底筋がほとんど収縮できていない状態でした。
出産後の骨盤臓器脱、とくに若い方では、私は「出ている臓器をどう支えるか」だけではなく、
弱っている骨盤底をどこまで回復させられるか?
という視点も大切だと思っています。
そこで今回は、すぐに手術を選択するのではなく、
ペッサリーの自己着脱+3か月間の骨盤底リハビリテーション
を行いました。
その結果、
骨盤臓器脱 Grade 3 → Grade 2
さらに、
Oxford scale 1 → 2
へ改善しました。
もちろん、すべてのGrade 3の骨盤臓器脱がリハビリテーションで改善するわけではありません。
また、症状や脱出の程度、今後の妊娠・出産希望、生活への影響などによっては、手術が最も良い選択になることもあります。
ただ、
「骨盤臓器脱だからペッサリー」 「ペッサリーでダメなら手術」
という二択だけではありません。
「支える」だけでなく、「回復させる」
人体には、適切な刺激や環境を与えることで回復していく力があります。
弱くなった筋肉には筋肉へのアプローチを。
伸びてしまった組織には、負担を減らす工夫を。
そして、脱出した臓器には必要に応じてペッサリーでサポートを。
「支える」「休ませる」「鍛える」を組み合わせる。
これも骨盤底診療の大切な考え方です。
特に30代、40代の骨盤臓器脱では、その先の人生はまだまだ長く続きます。
ペッサリーか、手術か。
その二択を考える前に、
「今の骨盤底に、まだできることはないだろうか?」
そこから治療を組み立ててみてもよいのではないでしょうか。
日本橋骨盤底診療所



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