間質性膀胱炎の痛みは、本当に膀胱だけから来ているのか?

先日の排尿機能学会で、間質性膀胱炎の治療についての教育講演を拝聴しました。

その中で非常に興味深かったのが、「痛みの広がり」についてのお話です。

間質性膀胱炎の痛みには、膀胱周囲に痛みがとどまる「限局型」から、骨盤以外にも痛みが広がる「スプレッドタイプ」まであり、特に広範囲に痛みを認めるタイプでは治療に難渋することが多い。

そして場合によっては精神科など他科との連携も必要になる、というお話でした。

確かに慢性疼痛を診療するうえで、とても重要な視点だと思います。

ただ、骨盤底を診療している立場から

その広がった痛みは、本当にすべて「膀胱からの痛み」なのでしょうか?

間質性膀胱炎と筋筋膜性疼痛

これまで何度もお話ししてきましたが、骨盤痛を考えるうえで重要なのが、

筋筋膜性疼痛(Myofascial Pain)

です。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんでは、骨盤底筋の圧痛や過緊張を認めることがあります。

実際、骨盤底筋に圧痛を認めるIC/PBS女性を対象としたFitzGeraldらのランダム化比較試験では、骨盤底を中心とした筋筋膜性理学療法を受けた患者さんの59%が改善したのに対して、一般的な全身マッサージでは26%でした。

つまり、

「膀胱の病気なのに、なぜ筋肉を治療すると良くなるのか?」

という疑問が出てきます。 

リハビリで膀胱を治しているのでしょうか?

骨盤底リハビリテーションは、膀胱を押したり揉んだりして間質性膀胱炎そのものを治す治療ではありません。

では、何を治療しているのでしょうか?

「膀胱そのもの」ではなく、「膀胱の周囲に生じている筋肉の問題」を治療している

と考えると、とても腑に落ちます。

欧州泌尿器科学会(EAU)の慢性骨盤痛ガイドラインでも、骨盤底筋の過活動や筋筋膜性トリガーポイントへの治療が取り上げられています。

そして非常に興味深いのが、

pain → spasm → painという考え方です。

痛い

筋肉が収縮する

筋肉が痛くなる

さらに収縮する

さらに痛くなる

という悪循環です。

「膀胱が痛い」から始まる悪循環

これを間質性膀胱炎に当てはめて考えてみます。

膀胱が痛い

身体が痛みから守ろうとして骨盤底筋が収縮する

その状態が長期間続く

骨盤底筋が過緊張になる

筋肉そのものに圧痛やトリガーポイントが生じる

会陰・腟・臀部・下腹部などにも痛みを感じる

最初は膀胱由来の痛みだったとしても、時間の経過とともに筋肉そのものが別の痛みの発生源になる可能性があります。

これが私たちが日常診療で診ている、

MPPS(Myofascial Pelvic Pain Syndrome:筋筋膜性骨盤痛症候群)

です。

「スプレッドタイプ=膀胱の痛みが広がった」なのか?

IC/BPSを含む慢性骨盤痛について研究しているMAPP Research Networkからも、興味深い報告があります。

痛みが主に骨盤内に限局する患者さんと、身体の広い範囲に痛みを認める患者さんでは、治療に対する反応が異なる可能性が示されています。

局所の痛みが主体の患者さんでは局所をターゲットとした治療が効きやすい一方、widespread painを持つ患者さんでは、より全身的・中枢的な痛みへのアプローチが必要になる可能性があります。

「スプレッドタイプ=間質性膀胱炎が重症化して、膀胱の痛みが全身へ広がった」

と単純に考えるだけでは不十分なのかもしれません。

痛みを一つずつ分解してみる

もちろん、スプレッドタイプのすべてをMPPSだけで説明できるわけではありません。

慢性疼痛では、筋筋膜性疼痛だけでなく、末梢神経、中枢性感作、心理社会的因子など、さまざまな要素が複雑に関係します。

だからこそ、痛みが広がっている患者さんほど、

「間質性膀胱炎だから全部痛い」

と一括りにしないことが大切なのではないでしょうか。

膀胱由来の痛みはどこまでなのか?

骨盤底筋を触ると痛くないか?

内閉鎖筋や肛門挙筋に圧痛はないか?

筋肉を押したときに、いつもの痛みが再現されないか?

一つずつ診察して、痛みの原因を分解して考えていきます。

骨盤底リハビリは「間質性膀胱炎そのもの」を治しているわけではない

ここはとても大切です。

膀胱の痛みに反応して硬くなった筋肉を緩める。
筋肉由来の痛みを減らす。
骨盤底の環境を整える。

その結果として、膀胱そのものの蓄尿時痛とは別に存在している痛みや症状を軽減できる可能性があります。

「膀胱を治療する」だけではなく、「膀胱の周りで何が起きているのかを見る」。

これが骨盤底診療の大切なところだと思っています。

痛い場所=痛みの原因とは限りません。

膀胱だけを見るのではなく、周囲の筋肉、神経、そして痛みを感じている身体全体を見る。

間質性膀胱炎+MPPS。

特に「治療しているのになかなか痛みが取れない」「痛みが膀胱以外にも広がっている」という患者さんでは、一度この視点から診察してみる価値があるのではないでしょうか。

日本橋骨盤底診療所

https://npfclinic.jp

参考文献

  1. FitzGerald MP, et al. Randomized Multicenter Clinical Trial of Myofascial Physical Therapy in Women With Interstitial Cystitis/Painful Bladder Syndrome and Pelvic Floor Tenderness. J Urol. 2012;187:2113-2118. doi:10.1016/j.juro.2012.01.123.
  2. European Association of Urology. EAU Guidelines on Chronic Pelvic Pain. Management: Physical Therapy / Primary Bladder Pain Syndrome.
  3. Schrepf A, et al. Widespread Pain Phenotypes Impact Treatment Efficacy Results in Randomized Clinical Trials for Interstitial Cystitis/Bladder Pain Syndrome: A MAPP Network Study.
  4. Lai HH, et al. Longitudinal Changes in the Pelvic Pain Only and Widespread Pain Phenotypes Over One Year in the MAPP-I Urologic Chronic Pelvic Pain Syndrome Cohort.
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