排尿機能学会で、二宮典子先生のNd.YAGレーザーの活用についての発表を拝聴しました。
今回の講演は、新しい知見を学べたことに加えて、日本橋骨盤底診療所で取り組んでいる「痛みの治療」と重なる部分が多く、これまで行ってきた治療を患者さんにお勧めするうえでも、裏付けとなる力をいただいたように感じました。
特に印象に残ったのが、
「痛みがどの組織から生じているのかを考え、治療する深さを変える」
という視点です。
Er.YAGとNd.YAGは何が違う?
日本橋骨盤底診療所では、閉経関連尿路性器症候群(GSM)や繰り返す膀胱炎などに対して、Er.YAGレーザーを使用しています。
Er.YAGは波長2940nmで、水への吸収が非常に高いことが特徴です。
そのためエネルギーは比較的表層で吸収されやすく、腟粘膜などの浅い組織に作用させる治療に適しています。
一方、Nd.YAGは波長1064nm。
Er.YAGと比較して水への吸収が少なく、光がより深部へ到達する特性があります。
かなりシンプルに表現すると、
Er.YAG → 粘膜など比較的浅い層
Nd.YAG → 結合組織、脂肪組織、筋肉などを含む、より深い層
という違いがあります。
もちろん、「何mmまで届く」と単純に決められるわけではありません。実際の作用する深さや熱作用は、波長だけでなく、出力、パルス幅、照射方法、組織の性質などによって変わります。
しかし、この「作用する深さの違い」は、骨盤底の痛みを考えるうえで非常に興味深いポイントです。
「粘膜が痛い」のか、「その奥が痛い」のか?
例えばGSMによる陰部痛。
腟粘膜が薄くなり、乾燥し、刺激に弱くなって痛い。
これは比較的理解しやすい病態です。
ところが実際に診察していると、それだけでは説明できない患者さんが少なくありません。
腟入口部を触るだけで痛い。
性交時に奥の方が痛い。
内閉鎖筋や肛門挙筋を触診すると強い圧痛がある。
骨盤底筋が常に緊張している。
このような患者さんでは、痛みの原因が「粘膜だけ」ではなく、その奥にある筋肉、筋膜、結合組織、神経などにも関係している可能性があります。
つまり、
表面の痛みと深部の痛みを、同じ治療だけで治そうとしてよいのか?
という疑問が出てきます。
Er.YAGの治療でも痛い患者さんがいる
特に今回興味深かったのが、
「Er.YAGレーザーの治療そのものが痛い患者さんにどう対応するか」
という視点です。
GSMが強い方、腟前庭部痛がある方、骨盤底筋の過緊張や筋筋膜性疼痛を伴っている方では、プローブを挿入すること自体がつらいことがあります。
「レーザーが痛いから治療できない」
で終わるのではなく、
なぜ、この患者さんは痛いのか?
を考える。
粘膜なのか。
筋肉なのか。
筋膜なのか。
あるいは、それらが複数重なっているのか。
ここを評価して治療を組み立てることが大切なのだと思います。
Nd.YAGで、より深い層から考える
二宮先生が講演の中で、Nd.YAGを用いて、より深い層から血流や組織環境の改善を図っていくことを力強くお話しされていたのが印象的でした。
これは、日本橋骨盤底診療所で行っている痛み治療とも非常に重なります。
当院では性交痛や陰部痛を「腟だけの病気」として診るのではなく、骨盤底筋まで評価しています。
必要に応じて、
骨盤底リハビリテーション、筋膜リリース、衝撃波、磁気刺激、レーザー
などを組み合わせています。
大切なのは「どの治療機器を使うか」ではありません。
痛みを出している場所を探し、その場所に合った治療を選択すること。
ここが一番重要だと考えています。
文献的には、まだこれからの領域
GSMに対する腟レーザーについては、Er.YAGやCO₂レーザーを中心に研究され、腟乾燥感、灼熱感、性交痛、Vaginal Health Indexなどの改善を報告した研究があります。
またEr.YAG治療後の腟粘膜について、組織学的な変化を検討した研究も報告されています。
一方、システマティックレビューやランダム化比較試験では一定の症状改善が示されているものの、研究間のばらつきや長期的な有効性・安全性、sham治療との比較など、まだ検討すべき課題が残っています。
さらに、Nd.YAGをGSM、性交痛、骨盤底筋由来の疼痛に応用する治療については、Er.YAGやCO₂レーザーほど臨床研究が蓄積されているわけではありません。
したがって現時点で、
「Nd.YAGだから深部の痛みが治る」
と断言することはできません。
興味深いのは光を用いた治療、いわゆるphotobiomodulation(PBM)については、疼痛や組織修復、微小循環などとの関係について幅広い領域で研究されています。
「どの波長を、どの組織に、どのような条件で照射するのか」
今後、骨盤底領域でも非常に興味深いテーマになると思います。
人それぞれ、「痛みの場所」が違う
今回の二宮先生の講演で最も勉強になったのは、単に
「Nd.YAGという新しい治療がある」
ということではありませんでした。
患者さん一人ひとりの病態を考えて、明確に治療戦略を立てること。
ここです。
GSMだからEr.YAG。
性交痛だからNd.YAG。
という単純な話ではありません。
粘膜が主なのか。
腟前庭なのか。
筋肉なのか。
筋膜なのか。
あるいは、それらが複雑に重なっているのか。
痛みの場所を探して、一つひとつ治療していく。
私自身、日本橋骨盤底診療所で痛みの患者さんを診療する中で、この考え方を非常に大切にしてきました。
今回の講演を聞き、
「浅い層から深い層まで、骨盤底全体を診る」
という考え方に、また一つ新しい治療の可能性が加わったように感じました。
Nd:YAGが、どのような痛みに、どの程度効果を発揮するのか。
これから私たちの臨床でも、一例一例を丁寧に評価しながら、その可能性を探っていきたいと思います。
日本橋骨盤底診療所

参考文献
- Gambacciani M, et al. Long-term effects of vaginal erbium laser in the treatment of genitourinary syndrome of menopause. Climacteric. 2018.
- Lapii GA, et al. Histological findings after non-ablative Er:YAG laser therapy in women with severe vaginal atrophy. Climacteric. 2021.
- Mension E, et al. Vaginal laser therapy for genitourinary syndrome of menopause: systematic review. Maturitas. 2022.
- Laser therapy for genitourinary syndrome of menopause: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. 2024.
監修 安倍弘和



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