70代の女性。
1か月に1回のペースで膀胱炎を繰り返していたため、治療を開始しました。
治療後、膀胱炎にはならなくなりました。
ところが、ある日の診察でこんなことを言われました。
「先生、いつまでこの薬を塗り続けるんですか?」
「私、ほんと苦手で……。あそこに塗ると思うと、憂鬱になるんです」
なるほど!
確かに「陰部に薬を塗り続ける」と考えると、なんとなく特別な治療をずっと続けなければならないような気持ちになるのかもしれません。
そこで、こんなお話をしました。
唇が乾いたら、リップクリームを塗りますよね。
手がカサカサになったら、ハンドクリームを塗ります。
毎日、歯を磨き、顔を洗い、爪が伸びれば切ります。
身体が汚れたらシャワーを浴びます。
考えてみれば、私たちは身体のいろいろな場所を、毎日当たり前のように「お手入れ」しています。
頭も、顔も、身体も、足も。
そして、陰部も身体の一部です。
必要に応じて保湿剤などを使って、皮膚や粘膜の状態を整えていくことは、決して特別なことではありません。
閉経後は「粘膜のお手入れ」が必要になることがあります
女性は閉経後、女性ホルモンの低下によって、外陰部や腟、尿道などの組織にさまざまな変化が起こります。
乾燥したり、粘膜が薄くなったり、刺激に弱くなったりすることがあります。
こうした閉経に伴う尿路・生殖器の変化を、GSM(閉経関連尿路性器症候群)と呼びます。
GSMは、乾燥感やヒリヒリ感、性交痛だけではありません。
頻尿、排尿時の違和感、そして反復性膀胱炎にも関係します。
ですから、閉経後に膀胱炎を繰り返している方では、「感染したら抗菌薬を飲む」だけではなく、背景にGSMがないかを評価することも大切です。
現在のガイドラインでも、GSMに対する保湿などの非ホルモン療法や局所ホルモン療法が示されています。また、閉経後の反復性尿路感染症では、禁忌がなければ局所腟エストロゲン療法が再発予防として推奨されています。
「治療」ではなく「毎日のお手入れ」という感覚で
GSMは、風邪のように薬を数日飲んだら終わり、というものではありません。
閉経後のホルモン環境の変化を背景にしているため、症状や粘膜の状態に合わせながら、長期的に付き合っていくことが大切です。
「薬をいつまで塗るんだろう」と考えるより、リップクリームやハンドクリームと同じような“身体のお手入れ”だと思ってみてください。
顔や手は一生懸命お手入れするのに、陰部だけは「触れたくない」「できれば何もしたくない」という方は少なくありません。
でも、陰部も大切な身体の一部です。
少しだけ手をかけてあげる。
そのひと手間が、膀胱炎をはじめとするGSMのさまざまな症状を予防し、快適に過ごすことにつながることがあります。
陰部のお手入れは、特別なことではありません。
年齢とともに変化する自分の身体をいたわる、日常のセルフケアのひとつなのです。
日本橋骨盤底診療所




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