性交痛(せいこうつう)というと、「気持ちの問題」「リラックスすれば治る」と誤解されがちです。中には「男が下手だからよ」と言う女性さえいらっしゃいます。
実際には身体に明確な原因があるケースがほとんどです。今日はそのことを実感させてくれた診察がありましたので、ご紹介したいと思います。
## 30代女性、子宮内膜症のケース
本日いらしたのは30代の女性で、子宮内膜症の治療を続けてこられた方です。
8年前からの症状で、2年ほど前からご自身でダイレーター(腟拡張器)を使ったトレーニングに取り組み、少しずつ改善の兆しはあったものの、「どうしても痛みが完全には取れない」ということで受診されました。
真面目にケアを続けてこられたからこそ、「これだけやっているのに、なぜ痛みが残るのか」というもどかしさを感じていらっしゃったのだと思います。
## 台上診でわかったこと
診察では、まずスワブテスト(綿棒を使って腟前庭の各部位を軽く触れ、痛みの部位を確認する検査)を行いました。
その結果、腟前庭の6時方向(会陰に近い部分)に強い痛みの反応があることがわかりました。これは「粘膜」の病気だと言うことがわかります。腟前庭炎です。
加えて、骨盤底筋そのものにも痛みが認められました。
さらに触診で骨盤底筋群を丁寧に評価したところ、主なトリガーポイント(押すと痛みが誘発され、症状の再現につながる筋肉のポイント)は、
– 左内閉鎖筋(ないへいさきん)
– 尾骨筋(びこつきん)
– 肛門挙筋
-会陰横筋
にトリガーポイントがあることがわかりました。実際にこれらのポイントを圧迫すると、普段感じている性交痛と同じ痛みが再現され、症状との一致が確認できました。
以上の所見から、
– 腟前庭炎
– 筋筋膜性骨盤疼痛症候群(myofascial pelvic pain syndrome:MPPS)
という診断に至りました。
子宮内膜症そのものだけでなく、その経過の中で骨盤底の筋肉が過緊張・防御性収縮を起こし、痛みが慢性化・複雑化していたケースだったと考えられます。ダイレーターによる腟の拡張トレーニングだけでは、筋肉由来の痛みまでは十分にカバーしきれていなかったのだろうと思います。
## 「原因がわかる」ことの意味
診察の中で、ご本人は「自分が感じていた痛みのポイントと、検査で見つかった所見がぴったり一致した」ことをとても喜んでいらっしゃいました。
漠然と「痛い」と感じ続けるのと、「ここの筋肉が原因で、こういうメカニズムで痛みが出ている」とわかるのとでは、治療への向き合い方が大きく変わります。原因と治療のゴールが具体的に見えたことで、これからの治療方針にも前向きになってくださったようでした。
## ご夫婦で向き合う姿
印象的だったのは、旦那さんがダイレーターのトレーニングに献身的に付き添ってこられたというお話です。
性交痛は、ご本人だけでなくパートナーにとっても悩ましいテーマになりやすいものです。それを「二人の課題」として一緒に取り組んでこられたことをお聞きして、これからの治療もきっと良い方向に進んでいくだろうと感じました。
性交痛は、我慢するものでも、原因不明のまま諦めるものでもありません。骨盤底の筋肉の状態を丁寧に評価することで、改善につながる糸口が見つかることも多くあります。同じように悩んでいらっしゃる方の参考になれば幸いです。
日本橋骨盤底診療所

日本橋骨盤底診療所 理事長
安倍 弘和 監修




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